袴の謎 なぜ股立の間に横の隙間「脇空け」が空けられるのか なぜ前紐は異常に長いのか なぜ腰板があるのか

袴に関する研究ばかりしてます

コケムシです。

 

kokemusigawa.hatenablog.com

和服の話をしてると良く聞かれる質問があります

それがタイトルの通り、袴の謎なのです

 

「なぜ横に隙間が空けられてるのか?」

「なぜ前紐だけ長いのか?」

「なぜ腰板があるのか?」

 

ホントコレ良く判んない

 

色々研究したり調べましたが、袴にある「余計」と言っても過言ではない装置の存在理由や起源が分からない

そんな謎について調べて見えてきた事を書きますが

あくまで儀等の考察及び推論です

状況証拠や学論を元にした程度の論いなので、参考程度にしてください

 

 

 

 

 

股立から竹筒を入れる為?

 

まずは股立の謎

 

よく論われるのが

「侍は刀を腰に差す為に袴の脇を開けてあるんだ」

という言説ですが、はっきり言って俗説でしょう

 

なぜなら侍の時代ではない平安貴族の袴にも開いてます

そしてこの頃の帯刀なんですが、ありません

太刀拵えという腰にぶら下げるカタチで携帯しており帯に差し込みません

というかそれを言い出したら左腰にのみ開ければ良い事になります

 

帯に差し込んで帯刀するのは、当時正式な作法ではなかった様です

当たり前なんですが相当キツめに縛らないと、走ってるだけで帯から外れます

そんなやり方は太刀拵えを用意できない低級身分の人の物だったのでしょう

 

これは竹筒のWikipediaに書いてある事なんですが、尿筒(しとづつ)と言ってボトリング用の竹筒があったそうです

平安時代の貴族の正装の装束は着脱が困難でトイレも一苦労

その為、裾から竹筒を入れて用を足したそうです

これは江戸時代に「公人朝夕人(くにんちょうじゃくにん)」と言う役職が設けられる程、伝統的な物でした

www.youtube.com

しかし謎なのは「裾」です

平安貴族の袴の裾ってどうなってるのか?

袴の裾は紐で縛られてるんですよ

それを解いてそこから入れるにしても、ちょっと不自然ですよね

 

上記の映像では裾から入れてますが、明らかに長さも足りていません

裾から入れるとしたら袴は大分めくれ上がる事が予想されます

 

だから股立が開いた方が良かったのかもしれません

ja.wikipedia.org

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ここには「袴の脇から」とあります

それ以外に理由が浮かばないくらいには、股立の存在意義が他にないのです

 

考えても見ると股立の開いた「袴」を使う様になったのは7世紀頃と推測されます

それ以前の袴に関しては「衣褌」と言い、卑しい身なりと蔑まれています

衣褌に股立が開いていた可能性は否定出来ませんが、埴輪等では造形されてる物は見られません

 

これは大陸から渡ってきた袍が正装として流行した際に、下衣も「衣褌」から「袴」に変わった為に股立が開いてる袴が正装とされたのかもしれません

 

これが開いた股立の推論です

 

まぁ論拠が足りないんですがね・・・

こちらのサイトでは股が開いていたというお話もされています

なら尿筒要らないのでは?とも思いましたが、資料が乏しい事なので真実は判りません

edosanpo.blog109.fc2.com

 

 

 

長い前紐

 

前紐の長さも良くツッコまれます

これも判らないんですよ

 

古い形式には「一本腰」と言われる一本の紐が前と後ろで繋がってる袴があります

しかし一本腰の場合は片方の股立の隙間が一定しており、ウエストの太さが一定のサイズでないとバランスを崩します

まぁコレは下に着る上衣などで調節したのかもしれません(太いなら諦めるしか無い)

コレは二本腰の袴に影響したのか?

判りません

 

そして古い形式を伝存する山袴の中には紐の長さが前後同じ物も(稀に)あります

なんとこの袴は、そもそも前後が決まっておらずどっちを前にしても後ろにしても良いという物

紐の長さが同じなら後紐と同じく短いのか

寧ろ前紐と同じく後ろも長いのか

そしてそれはどの様な理由でそうなったのか

 

因みに儀等が穿いている袴は、前と後ろが決まっていますが紐は同じ長さです

括り緒みたいに紐を通す筒を付けて紐がズレないようにしています

 

逆にその筒がなければ?

ズレるんですよねぇ・・・

そのズレを防ぐ為に前紐を2周させるのかもしれません

 

袖括りの緒ならば筒に負担はかからないでしょう

しかし袴の紐は腰にあります

人体工学においても腰の関節は難しい物で、ベルトやズボンには強い負担がかかります

当時の裁縫糸の強度でその負担に耐えられたかを考えると、仕方のない事かもしれませんね

 

しかしこの論いも論拠が乏しい

事実タチアゲと呼ばれる山袴は発見され、腰に紐を通す筒が設けられています

逆にそのタチアゲの様な筒を「卑しい衣褌の習俗」と嫌ったのかもしれません

もしそうだとしたら機能的に優れた文化を捨てて、見栄と虚勢を選んだと言うよくあるパターン

 

真実の程は如何に・・・・・

 

 

腰板の起源は室町時代の「広腰」?

 

腰板に関しても「なんでこんなのがあんの?」とよく言われますが、起源に関してもよく判っていません

 

宮本馨太郎著のきもの・かぶりもの・はきものには

室町時代に端を発する広腰から云々」

と書かれています

ググっても広腰の話なんて他に聞かない!

 

全く謎なんですよコレ!

シルエットが美しくなる様に、なんて聞きますがコレも根拠が見当たらない

全く見当が付きません

 

判っているのは「室町時代が起源で当時は広腰という名前だった」くらいです

ホントなんなんでしょうねコレ?