【コハゼとは】和服の留め具である鞐について語ろう!【鞐とは】

結論から言いましょう!

 

日本に奈良時代からある「鞐」と江戸時代中期に編み出された「こはぜ」の違いがある!

 

どうもコケムシです

皆さんは

「なぜ日本の着物にはボタンみたいな留め具が無いのだろう?」

と思った事はありませんか?

特にイラストレーターやキャラクターデザインの方なら、疑問に思われた方も多いと思います

 

昨今は特に和風デザインが多いので描いてて帯や紐にマンネリしてしまう気持は良く解ります!

 

あるにはあるんです

忘れられてるんですよ「鞐」って留め具が

 

そんな訳で鞐について口をマメらせますよ!

 

 

 

こはぜとは

よく勘違いされてる

というか知らないから間違えてる人も多いんですがね・・・

 

こはぜって言うと足袋・脚絆・手甲等に使われる「爪型」のモノを思い浮かべる人が大半です

 

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コレは江戸時代中期頃に開発された割と新しい服飾物です

主な用途としては

足袋

脚絆

手甲

等の留め具です

 

しかしこのこはぜは言っちゃなんですが使用用途ホントに少ない

というのもこの爪みたいな形状からお察しでしょうが

ほぼ固定できません

 

取っ掛かり・引っ掛かりと言った機能がないので、力を入れなくても簡単に紐から外れてくれます

裏を返せばちょっとした拍子で簡単に外れると言う事です

留め具でありながら留めると言う程の、しっかり留める機能はないんです

 

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これは「窄衣」 すなはち「体にピッタリ密着してるタイプの服」等にしか使えないんです

掛け紐とこはぜの間にこはぜ一つ分の可動領域があれば容赦なく外れます

 

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その為、使う衣料が限られるだけでなくゴム素材等の伸縮性のある繊維であれば、ほぼ実用性がありません

ゴム素材やマジックテープ等が無い昔だから使われてたモノです

 

平たいボタン等に取って代わられてもいる現状では、使う風習がなくなれば同時に消滅すると思います

 

因みにこはぜと入れる紐なんですが、ペラペラしない厚手の生地でない限り縫い付けられません

ちょっとした動きで外れてしまうからです

というか厚手の生地でも外れるのに、その上ペラペラされたら余計外れ易くなりますヨ

 

そしてお察しの通り

厚手の生地が条件になるので薄手の夏物には不向きです

 

使用用途はかなり不自由で扱いに困ります

 

鞐とは

「鞐」とは甲冑・服飾等に使われる留め具で、前述の鞐より奈良時代からあります

正倉院にて白葛胡禄 第一号と言う宝物に当時のものが取り付けられています

shosoin.kunaicho.go.jp

 

 

鞐の種類

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鞐は

乳・綰等に通して留める「笠鞐」

笠鞐が乳・綰から外れない様に固定する「責鞐」

 

の二つで構成される事が多いです

と言っても笠鞐のみ使用される事もしばしばあります

 

形状としては色々あって、彫刻が施されたりする事もあります

clothroad.hatenablog.jp

鞐の漢字の由来(推測)

この「鞐」という漢字ですが、日本で作られた日本だけの漢字である「国字」です

それこそ漢字の専門家の方でも

「この漢字はなぜ「革」偏に「上下」旁なのか解らない」

と仰いますが、これは恐らく

「甲冑の胴の肩上の綰に備えられる責鞐を上下させる様」

が由来かと思われます

現代に於いては前述した「こはぜ」の爪型イメージが定着し過ぎて、本来こはぜと言われていたこちらの「鞐」が知られていない為に誤解が生まれているのでしょう

 

また、「革」と言う字は「革命」にも使われる様に「たるんだ物を改める」という意味があります

たるんで緩みきった乳・綰を責鞐で締める事から「革」の字が使われたのではないでしょうか

つまり「鞐」という漢字は「責鞐」から成り立っているかもしれない訳です

 

鞐の素材

鞐は主に

真鍮

等の金属から

等の動物性の素材が使われます

 

asakura-museum.pref.fukui.lg.jp

www.pref.hiroshima.lg.jp

 

不思議な事に「木製」のモノは見つかってません

漆塗りした木製の鞐くらい見つかっても不思議ではないと思うのですが、竹や木など使った物は確認できていないんです

 

 

鞐の使用用途

使用用途としては

甲冑・具足

陣羽織

合羽

頭巾

ジバン・具足下・鎧下着

等に使われます

 

tobunken.repo.nii.ac.jp

ここにはコウモリ形の笠鞐が見られます

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牛角製でこういう遊び心出すのが武士階級の逆鱗に触れて奢侈禁止令になったんでしょうね

 まぁ今はそんな法律ないから女性が羽織を着ても良い時代なんですよ

鞐の「牡丹掛け」という別称

合羽に於いては「牡丹掛け」と呼ばれており、鞐と呼ばれていない場合もあるようです

ボタンは15世紀頃に日本に伝来したと云われていますが、南蛮文化であるボタンには「責鞐」の様な「留め具を留める留め具」はありません(多分)

 

しかし後世に於いて「牡丹掛け」と呼ばれる物は、留め具が「笠鞐」であれ「ボタン」であれ「責鞐」が付属しているのです

勿論付いてない場合もあるかもしれませんが、儀等は見た事ないですねぇ

 

これは最早ボタンと言うには「鞐の形式」の色が強い事から、先人の過ちと思います

 

同様の理由で「ボタン足袋」と言い伝えられる足袋に使われていたのも「笠鞐」だったかもしれないと儀等は予想しています

「ボタン足袋」についてはこちらで詳しく

kokemusigawa.hatenablog.com

 

 鞐の文化性

留め具を留める留め具「責鞐」

そんな服飾文化を儀等は知りません(勉強不足なだけかも)

色々調べもしましたが、他国の文化に於いても滅多に無い民俗だと思います

つまり日本独自、強い日本文化性を持った留め具なんです

 

機能的にも大変優れて使い易く、儀等は鞐を使った苔色のジバンが一番お気に入りです

ボタンとボタンホールだと片手で留めたり外したりが大変なのですが、笠鞐だと極めて留め外しが容易です

 

それだけに現代人に忘れ去られているのが惜しい・・・

 

商品として復活する事を切に願います

 

おわりに

 

「和装には留め具がない」という点は着崩れしやすい点からも、重要な問題として扱われています

帯や紐で腹部に締め付ける以外に着る形式がないのは、服飾文明の程度としても健康上の問題としても重く、解決が望まれる所でしょう

時代劇の影響からイメージし難い事でしょうが、実際の和装にも留め具があった事を忘れず、さらなる発展を願うばかりです